宍道湖で1993年以降ウナギとワカサギがとれなくなった原因はネオニコチノイド

島根県にある宍道湖は、江戸時代には関西で食されるウナギを「出雲ウナギ」として供給するほど、ウナギが豊富にとれた湖でした。1991年に私が学位を取ったときもまだ十分採れていて、漁協の方々がウナギづくしの祝宴を設けてくださいました。ウナギのあらいを食べたのは、あのときが最初で最後です。

その2年後の1993年には、ウナギとワカサギの漁獲量が激減しました。同時に魚の餌として重要な動物プランクトンやオオユスリカも減りました。その状態がずっと続いて今日に至っています。

宍道湖に限らず、日本の内水面漁業(川や湖での漁業)では漁獲量の減少が続いています。ある研究者は、その原因はオオクチバスなどの外来性魚食魚だと、統計をいじっただけの研究論文を出してプレスレリースしていました。これはひどいと思いました。その論文では淡水性の外来性魚食魚がいない汽水湖沼が多く含まれ、なおかつ、それらの魚類が食べるハズのないヤマトシジミを対象から外していなかったからです。こんな非現実的な内容を同僚も見抜けずプレスレリースしてしまうのが、日本の陸水学レベルなのかと情けなく思いました。

そこで私は、統計で現場に則さない結論を導くのではなく、40年近く現場を見てきた宍道湖を対象に、40年近いデータを関係機関から提供いただき、少なくともワカサギとウナギについては、ネオニコチノイド使用により餌動物が減ったことが原因との結論を導き出し、アメリカの科学雑誌Scienceで公表しました。

同様の影響は、宍道湖程度の塩分の汽水湖や河川感潮域で起こっている可能性があります。また汽水域は一部の海産魚の初期成長の場なので、海産魚の減少にもつながっている可能性があります。

日本は欧米と違って主食が米です。水田にまかれた水溶性かつ難分解性のネオニコチノイドは、川や湖に直接流出して、その生態系に影響を及ぼします。小麦ですと土壌を通って地下水として供給されるので、日本ほど大きな影響を与えにくく、そのことでこれまで、魚類への影響が見過ごされてきたのだと思われます。

この論文の内容を日本語で照会した記事へのリンクは下記です。

また論文そのものへのリンクは下記です。

(追伸)

40年近く毎月動物プランクトンのモニタリングをしたり、ベントス調査を続けてきたのは、国交省中国四国整備局出雲河川事務所です。今回の論文では、その貴重なデータを提供いただくことで実態を明らかにすることができました。

宍道湖では水質が悪化したとかシジミがとれなくなったら、湖岸整備でヨシ原が無くなったからだとか、ダムを作ったからだとか、科学的根拠皆無のまま批判する風潮がありました。実際には湖岸を定期的に巡回して観察を続け、地道にモニタリングデータをとり続けているのが、出雲河川事務所や、住まいの近くにある霞ヶ浦河川事務所です。国交省は他省庁同様、予算削減の流れを受けていると思いますが、こういった各河川事務所のモニタリング経費を削ることは、極力回避いただければと思います。各地方の水域に事務所があるのは国交省だけだからです。

そして何ら科学的裏付けがないまま、国交省による工事が環境悪化の原因だと決めつける生態学者や市民団体は、実態を見ようともしない扇動者と思ってよいでしょう。