読書記録

三島次郎著「街角のエコロジー 見えない自然のはたらきを見る」

近年、生態学者が「自然再生」事業に関わる例が増え、日本生態学会編「自然再生マニュアル」という本まででています。私はこういった風潮に違和感をもって来ました。 本書は、E.P.オダム著「生態学の基礎」の訳者である三島次郎先生のエッセイ集です。そこに…

小野有五著「たたかう地理学」

公害問題(環境問題)の解決に貢献できる職につきたいと考えていた私が、なぜ文科III類から理学部地理学教室に進学したのか。本書第1章の冒頭には、地理に対する私と同じ考えが書かれていました。 「つねに変わらなかったのは、まず現場に立つ、歩いてみる、…

田中法生著「異端の植物『水草』を科学する」

私は海に住む「水草」である海草の研究を博士課程の頃から続けていて、現在もフィリピン大学の国際海草学会元会長と共同研究しています(それで時々ミンダナオ島に行ったりしているのです)。 私の関心は専ら「海草と環境(炭素、窒素、リンの動きや、海草を…

井本史夫著「シニア犬のケアと介護」

行きつけの美容師さんとの雑談で「犬もぼけるのよ。遠吠えでしょ、徘徊でしょ。」と、その16歳の天寿を全うしたのがうちのクリと同じ柴犬だったことから、衝動買いしました。人間の認知症も初期の段階で分かっていれば、対策によって遅らせることができると…

辰巳郁雄著「走った! 撮った! 世界のマラソン」

著者は、私が2年生の時に中退した高校の同窓生です。30年前はワンゲル部に所属していた彼がフルマラソンに飽きたらず富士登山競争を完走してしまうのはうなずけるとしても、彼の方では、何であんな運動音痴の山室がフルマラソンを。。と今でも思っているに違…

「首都圏の水があぶない 利根川の治水・利水・環境は、いま」

メガシティ東京の水資源をどう考えるか、ここ数年検討していて、参考になるかと読んでみました。残念ながら、著者の1人の主張の一部が荒唐無稽で、この方の他の内容の信憑性も疑われました。権威ある岩波書店の本であることから、この記載を正しいと信じて…

チェルノブイリ被害の全貌

チェルノブイリ原発事故の影響に関する論文を網羅した、資料集的な本です。 半分以上が人健康への影響です。1986年の事故以降、ざっと読んだところ2007年くらいまで追跡されていました。実に30年。福島原発事故の追跡も、これくらいされるのでしょうか(誰が…

「減農薬のための田の虫図鑑 害虫、益虫、ただの虫」

意外なことに、DDT、BHC、水銀剤などが使用禁止になった1970年代以降にむしろ農薬の散布は「低毒性」だからといって、かえって増え続けていったのです。しかも無駄な散布が横行していました。ではなぜ、好きで散布する百姓はいない「農薬」を、どうして必要…

篠永正道著「脳脊髄液減少症を知っていますか」

2月1日発行と、脳脊髄液減少症に関する最新の一般向けの本です。 脳脊髄液減少症にかかるとどのような症状を呈するか、とても分かりやすく説明されています。また似た症状を呈する他の病気についても説明があるので、自分の症状が脳脊髄液減少症なのか判断…

加藤真著「生命は細部に宿りたまう」

日本では富栄養化以前に除草剤使用によって平野部湖沼の沈水植物が衰退したことは共著「里湖モク採り物語」や論文で記した通りですが、近年は除草剤使用の減少によって沈水植物が増えている水域があります。宍道湖がその例です。 しかし、かつては肥料用に刈…

森達也「世界を信じるためのメソッド ぼくらの時代のメディア・リテラシー」

「僕たちの世界観はメディアによって作られる。だからメディアはとても大切。でもメディアは時おり間違える。そしてそのメディアを読んだり見たり聞いたりした人たちは、とても簡単にそれを信じ込む。つまり間違った世界観が、とても大量に作られる。メディ…

島村英紀「私はなぜ逮捕され、そこで何を見たか。」

地震学者で元国立極地研究所所長の島村氏による、文庫本書き下ろしの本です。そのカバーに「逮捕・拘留されると『どうなるか』を科学者の目で解析する。」とあります。つい最近もパソコンがウイルスに感染された被害者が犯人として自白させられたりなど冤罪…

美味しんぼ(109)日本全県巡り島根編

「美味しんぼ(109)日本全県巡り島根編」が発行されました。 「3.11で破壊された東北の光景に心を縛られているだけではなく、かつての東北に劣らない風土を見て復興を成し遂げよう」と、冒頭で海原雄山が語るシーンに出て来るのは宍道湖。そして巻末、至高…

佐藤優「読書の技法」

陸水研のメンバーは、「ここに進学する為にどういう勉強をすればよいですか」との質問に「高校の参考書レベルはマスターしておくこと。物理・化学・生物・地学だけでなく、社会との関係も考える上で、できれば日本史・世界史も。」と言われた記憶があるかと…

参考書18「吸光光度法ノウハウ」

陸水研は生態学をメインにしていると誤解して訪ねてくる学生さんが結構多いのですが、陸水学の基本は地球科学です。中でも私は博士論文以来、生元素循環によって環境動態を定量化することを専門にしてきましたので、吸光光度法による栄養塩分析は経験済みの…

参考書17「新版だれでもできるパックテストで環境しらべ」

総合学習としての環境教育に求められるのは、科学的な思考に基づいて、問題解決のために自ら判断と行動ができる能力を養っていくことです。子どもだから科学的な思考はできないだろうと見下して、例えばアサザ基金ホームページの記載にあるような似非科学を…

お菓子の基本大図鑑

待ちに待ったバレンタインデー。娘は昨年より気合いを入れて、1時までかかって友チョコを作ってました。もっとも、これから県立高校を受けるお友達はそれどころではなく、娘から彼女らに「頑張ってね!」と渡す感じだったようです。 その娘がお菓子作りの参…

淡水魚塗り絵図鑑

NPO法人nature works企画・制作・発行の、非売品の本です。 12色の色鉛筆で、こんなにリアルに描けるんですね。 作画されている小村一也氏は、解剖学実習手引書の図も手がけています。 NPO法人nature worksのI様いわく、 「どの大学の、どの分野のセンセも、…

日本陸水学会「川と湖を見る・知る・探る 陸水学入門」

日本陸水学会が一般への普及を目指して編集した本です。このため「第一部:川と湖を見る・知る・探る」は、陸水学を既に学んでいる学生さんには既知のことばかりと思いますが、水について全く勉強したことのない方には分かりやすいかもしれません。 「第二部…

川井唯史著「ザリガニの博物誌―里川学入門」

「ザリガニ―ニホン・アメリカ・ウチダ」「エビ・カニ・ザリガニ 淡水甲殻類の保全と生物学」など、ザリガニ本を次々と出している川井唯史氏の、たぶん最初のザリガニ本。ニホンザリガニを中心に、ザリガニ類の生態や分布、進化など、幅広くザリガニの科学が…

父・西條八十の横顔

2007年10月に逝去された西條八束先生の最後の著作です。西條八十という名前を知らない方でも、「かあさん お肩をたたきましょう」で始まる肩たたきの歌や、「てんてん手鞠、てん手鞠」で始まる鞠と殿様の歌を知らない人は少ないでしょう。西條八十はその歌詞…

環境と文明の世界史 ー人類史20万年の興亡を環境史から学ぶ

1997年に交通事故で脳にトラブルが生じてから、読書がほとんどできなくなりました。それでも読みたい本は買っておいて、ざっと200冊くらい積ん読状態になっている中から、ようやく読み終えた1冊。10年前の本ですが、例えば3.11やTPP問題を「人類の持続性」を…

歴史人口学で読む江戸日本

8月10日記事で、関ヶ原の合戦から平成7年までの日本の人口分布の変化をご紹介し、出典は速水 融氏ではないかと書きました。 2週間後、人口変化をご専門とする先生から、上智大学の鬼頭宏先生の論文ではないかとのメールをいただき、出典として ・社会工学研…

「レイチェル・カーソンに学ぶ環境問題」

「沈黙の春」は、人が化学物質によって生態系を不可逆的に破壊していることを一般向けに告発した最初の本で、ダウンズが選んだ「世界を変えた本」27冊の中に、聖書やプラトン、ダーウィンの著作などとともに選ばれています。1999年にTIME誌が選んだ「20世紀…

言葉でたたかう技術 −日本的美質と雄弁力

著者は出版当時81歳。これだけの内容をこの年齢で書ける脳力に、まず脱帽。 学生さんに是非読んでほしいのは、議論の仕方に関する著者の見解です。 ギリシャの昔から、ヨーロッパでは言論は力です。以下、著者はアリストテレスの文章を次のように引用してい…

一途、ひたすら、精一杯

37歳の誕生日直前に交通事故に遭い、脳脊髄液減少症になりました。当時はこの後遺症が一般に知られておらず、42歳になってようやくMRI画像で初めてこの後遺症と診断されたとき、主治医の先生から「脳の表面が70歳代、もしくは10年間毎晩4合以上の飲酒した人…

偏差値29からの東大合格

「陸水研でやっていくには、どういう勉強をしておくとよいですか」と、進学志望者からよく尋ねられます。陸水学は総合科学ですが、地学・化学・生物・物理と数学の、高校の参考書程度の知識が身についていれば大丈夫です。進学してからは、それぞれのテーマ…

水辺の小わざ

水域が本来有している生物の生息環境や、多様な景観を保全・創出するためにはどのような管理をすればよいのか。この本にはそのために必要な基礎知識と具体的な工夫が分かりやすく解説されています。 視野の広さと総合性、見通しの確かさ、地域住民と取り組ん…

おかえりコウノトリ

コウノトリを復活させた豊岡市の取り組みを紹介した本です。著者は10月11日付ブログで紹介した佐竹節夫様。どのようにコウノトリが絶滅したのか、なぜ豊岡市では自治体ぐるみで復活への取り組みができたのか、どうやって復活させたかなど非常に幅広い内容な…

アジア巨大都市

著者のおひとりの谷口真人先生から、表記のご高著を頂きました。 初めの3章(都市、水辺、地下)では見開き2頁に東京、大阪、台北、ソウル、バンコク、ジャカルタ、マニラというアジアの巨大都市の写真がテーマごとに並べられています。 テーマとして、例え…